souplesse’s blog

読書の記録を中心につれづれと

子育てのパラドックス「親になることは人生をどう変えるのか」

「子育てのパラドックス 親になることは人生をどう変えるのか?」(2015年 ジェニファー・シニア) 

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この本は、子どもを持つことが親にもたらす影響について書かれている。

 

本書の中で、紹介されている調査結果によると

 

女性の幸福にとって、仕事は良い影響をもたらすが、子どもはそのプラスの効果を打ち消す傾向にある(p12)

 

子どもは、父親よりも、母親の心の健康を損なう(p12)

 

テキサスの働く女性909人に「どんな活動に最も喜びを感じるか」を調査したところ、子どもの世話は19項目中16位。昼寝や買い物や家事よりも下だった。(p13)

 

子どもを持つことが必ずしも幸せにつながっていないことを明らかにした。

 

それは、なぜか?

 

理由の一つとして挙げられているのは、子育てという活動の「不明確さ」である。

 

子どもが労働力として期待された時代が終わり、子どもは家族のために働くことをやめ、その代わりに、親はその二倍働くことになった。子どもは「労働力」から「守るべき存在」に代わった。(本書の中では「子どもは従業員からボスに代わった」と表現されている。いい得て妙。)

現代の親は、どの時代の親よりもたくさんの資本を、子どもに注いでいる。

しかし「子育て」という新たな仕事は、定義が実にあいまいで、何をゴールにして、何をすべきなのかが明確になっていない。

 

この本の中では、乳幼児期、学童期、思春期という時系列に沿って、現代の親が何に困難を感じているのかを分析している。

 

乳幼児期:睡眠時間とフロー(没頭)状態が奪われる、夫婦関係が変化する

学童期:子どもの予定に翻弄される

思春期:「子どもは守られるべき存在」という近代以降の思想と現実の不一致

 

中でも面白かったのが、夫婦関係の変化。

 

父親は、家にいる間にレジャー活動に使える時間が長くなるほどストレスレベルが下がる。母親は、夫が家事をしている姿を見ることでストレスレベルが下がる(p73) 

 

6歳以下の子を持つ母親は、同条件の父親に比べて、週あたり5時間多く働いている。その5時間はたいてい夜間の子どもにかかる時間。(p73) 

 

多くの母親の活動時間は、分断されて細切れになっている。父親は、自分の用事と子どもの世話をきっちり分けて行う。母親がマルチタスクを行う時間は、父親と平均して、週10時間多い。(p77)

 

事例やデータを見て分かった傾向は「父親は、自分の時間を確保しながら、子どもの世話をしている」ということだ。

 

それでは、母親は?

本書中の事例を見ていると、自分でハードルを上げ、やるべきことを増やしているように見えた。

 

勝手に子育てを大変にして、勝手に「あなたはなぜ、私と同じように苦労しないの?」とパートナーに苛立つ。

自分にもそういう部分があったような気がして、胸が少しチクリと傷んだ。 

 

貧困と保育 社会と福祉につなぎ、希望をつむぐ

「貧困と保育 社会と福祉につなぎ、希望をつむぐ」(編著:秋田喜代美、小西祐馬、菅原ますみ 2016年)

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昨今、日本の子どもの貧困が深刻な問題として取り上げられ、議論にあがることが増えています。

この本は、保育の実践者と研究者が、それぞれの視点から、乳幼児期の貧困に焦点を当てて書いた本です。

 どんな貧困が起こっているのか?

 なぜそのような貧困が起こっているのか?

 貧困の何が問題なのか?

データや事例から今起こっていることを整理し、解決のためにできることについて提言しています。

 

本のタイトルにもあるように、キーとなるのは保育園です。

子どもの貧困の中でも、特に、その後への影響(貧困の世代的再生産)が大きく、介入した際に効果が大きく出るのは、0歳から5歳までの時期、です。

保育園は、まさにこの年代の子どもと毎日接点を持ちながら、養護を教育を一体的に提供している施設です。

また子どもだけではなく、親との毎日接点を持つことができるため、親子双方への支援を行うことができます。

 

本の中で、保育園の職員が、一人親家庭の親子をよく見守り、生活保護につないだ事例が出てきます。この親子の変化のプロセスを見ると、貧困問題における保育園の可能性を感じずにはいられませんでした。

そして保育所がこういった機能を担うための具体的なアプローチとして、保育ソーシャルワーカー配置の提言もされています。(保育士、主任、園長はそもそも固有の役割があるため、個別の複雑なケースを支援機関と連携する業務まではとても担えない)

保育園に子どもにフォーカスしたソーシャルワーカーを配置すれば、こどもの貧困に直接的にアプローチできて、とても効果的だと思いました。

 

 

以下は、心に残った文章の抜粋、要約。

グレッグ・J・ダンカンらの研究グループが、幼少期の貧困・低所得の影響について調査を行った。妊娠期から15歳までを「妊娠期から5歳」「6~10歳」「11~15歳」の3つに分け、どの時代で貧困・低所得を経験することがより影響が大きいのかを分析した。その結果、妊娠中から5歳までの貧困・低所得の経験が最も影響が大きいことが分かった。また、もしも家庭年収があと3000ドル高かった場合、成人期になった時に子どもの稼ぎがどれくらい上昇するかについてもシミュレーションを行った。結果は、妊娠期から5歳までが最も効果的で、成人期の所得が17%上昇することが分かった。(P200-202)

 

人類の子育ては、養育や教育の機能が高度になり、かつ、時代によって求められる能力が急変するため、養育者だけで対応することが困難になっている。子育てへの不安や要求は「多様なニーズ」「サービス需要」を生み出す。つまり不安を商品化すれば、サービス商品は飛ぶように売れる。親同士の助け合いや、親が主体的に子育てを工夫してしまえば商売にならない。「子育ての外注化」「子どもの商品化」への依存は、子育てをお金に依存する構造を作る。それが、「お金がなければ子育てできない」「所得のありようが子育ての質を左右する」につながっていく(p114-116)

 

「子どもにとって最善」を目指す職場では、子の後ろにある家庭への働きかけが欠かせない。保育園は、子と親にとって大切な社会の窓口。信頼関係が崩れて登園しなくなれば、その子の命さえも守ることができない。(p66)

手厚い保育所時代はやり過ごせるかもしれない。しかしこの子たちは、わが子の支度もできない、生活力もついていない親たちと、一生、親子でい続けなければならない。そう考えた時にケアだけでは足りない、「生きる力」「生活力」を他の子どもたちよりも少し早くつける手伝いをしたいと思うようになった。(p68)

大変な事情を抱えた家族が入所できると、この社会資源につながってほんとうによかったと心から思う。おなかいっぱい温かい給食を食べ、あそびと生活が保障され、自分が大切にされる心の寄り添いを安心して受け、子どもたちは豊かに発達していく。

「自分の気持ちを分かったくれた」「助けてと言ったらなんとかなった」経験をおみやげ袋にたくさんつめて小学校へ送り出したい。辛くなった時、おみやげ袋のあったかい経験で心を包んで、前を向くたくましさにつなげてほしいと願わずにはいられない。(p70)

 

ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来

「ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来」(2015年 広井良典 

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有史以来、農耕の開始~市場化~産業化~情報化・金融化という時代の移り変わりが、どのように起こってきたのかを、科学技術の発展を軸に紐解き、これからどんな世界になっていくかを考察した本です。

この本の中で、資本主義と近代科学がパラレルに発展してきたことが、いくつかの文脈で示されるのですが、これが「そう言われてみればその通り!」で面白い。

他にも「資本主義」と「市場」の違いがスコンと腹落ちできる説明があったり、知っていたけれど分かっていなかった断片的な情報が、再編集されるような考察がたくさんありました。(学校で習い、日々新聞やニュースでも見ているはずなのに、経済って結局よく分からない!と感じているのは、私だけでしょうか…)

 

決して読みやすい、分かりやすい本ではありません。要するに何なの?結局どうすればいいの?に対する、痛快で分かりやすい答えもありません。

ですが、少し先(50~100年くらい先をイメージして言っています)のことを想像するのに、とても役立つ本だと思います。

  

以下は、気になった文章の要約

 資本主義と市場主義とは異なる。市場経済は、文字通り市場の領域で、一定の透明性や公平性が生じる領域である。一方、資本主義は単なる商品と貨幣の交換ではなく、そうした取引を通じて自らの保有する貨幣が量的に増大することを追求するシステムである。つまり、資本主義=市場経済+限りない拡大成長を志向するシステム(p28-29)

 

アメリカの全産業利益に占める金融業のシェアは、1984年には9.6%だったのが、2002年には30.9%にまで上昇した。金融という領域が収益を上げていくには、「実体経済面」での生産や消費の拡大が必要である。しかし先進国の国内市場が飽和しても、新興国の工業化や消費拡大に ”寄生” する形で先進国の資本主義は当面生き延びることができる。ここには、低所得者の未来に対する期待に働きかけて、その未来の収益を先回り的に略奪する「期待の搾取」とも呼ぶべき構造がある。(p66-69) 

 

かつては、”人手が足りず、自然資源が十分ある”状況だったので、少ない人手で多くの生産をあげる「労働生産性」が重要だった。しかし現在は逆に、”人手が余り、自然資源が足りない”状況になっている。したがって、そこでは人を積極的に使い環境負荷を抑える「環境効率性」 が重要になってくる。そのための政策として、1990年頃からヨーロッパにおいて「労働への課税から、資源消費・環境負荷への課税へ」という政策がとられるようになった。(例:独1999年「エコロジー税制改革」)(p144-145)

 

 

ひっそりと、始動。

 

 

読書メモを中心につれづれと綴っていきます。

 

さて、

どんなことが書けるかな?

どれくらいの頻度で書けるかな?

 

ゆるゆると続けていきたいと思います。

皆さま、どうぞよろしくお願いします。