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貧困と保育 社会と福祉につなぎ、希望をつむぐ

「貧困と保育 社会と福祉につなぎ、希望をつむぐ」(編著:秋田喜代美、小西祐馬、菅原ますみ 2016年)

貧困と保育 | 秋田 喜代美, 小西 祐馬, 菅原 ますみ |本 | 通販 | Amazon

 

昨今、日本の子どもの貧困が深刻な問題として取り上げられ、議論にあがることが増えています。

この本は、保育の実践者と研究者が、それぞれの視点から、乳幼児期の貧困に焦点を当てて書いた本です。

 どんな貧困が起こっているのか?

 なぜそのような貧困が起こっているのか?

 貧困の何が問題なのか?

データや事例から今起こっていることを整理し、解決のためにできることについて提言しています。

 

本のタイトルにもあるように、キーとなるのは保育園です。

子どもの貧困の中でも、特に、その後への影響(貧困の世代的再生産)が大きく、介入した際に効果が大きく出るのは、0歳から5歳までの時期、です。

保育園は、まさにこの年代の子どもと毎日接点を持ちながら、養護を教育を一体的に提供している施設です。

また子どもだけではなく、親との毎日接点を持つことができるため、親子双方への支援を行うことができます。

 

本の中で、保育園の職員が、一人親家庭の親子をよく見守り、生活保護につないだ事例が出てきます。この親子の変化のプロセスを見ると、貧困問題における保育園の可能性を感じずにはいられませんでした。

そして保育所がこういった機能を担うための具体的なアプローチとして、保育ソーシャルワーカー配置の提言もされています。(保育士、主任、園長はそもそも固有の役割があるため、個別の複雑なケースを支援機関と連携する業務まではとても担えない)

保育園に子どもにフォーカスしたソーシャルワーカーを配置すれば、こどもの貧困に直接的にアプローチできて、とても効果的だと思いました。

 

 

以下は、心に残った文章の抜粋、要約。

グレッグ・J・ダンカンらの研究グループが、幼少期の貧困・低所得の影響について調査を行った。妊娠期から15歳までを「妊娠期から5歳」「6~10歳」「11~15歳」の3つに分け、どの時代で貧困・低所得を経験することがより影響が大きいのかを分析した。その結果、妊娠中から5歳までの貧困・低所得の経験が最も影響が大きいことが分かった。また、もしも家庭年収があと3000ドル高かった場合、成人期になった時に子どもの稼ぎがどれくらい上昇するかについてもシミュレーションを行った。結果は、妊娠期から5歳までが最も効果的で、成人期の所得が17%上昇することが分かった。(P200-202)

 

人類の子育ては、養育や教育の機能が高度になり、かつ、時代によって求められる能力が急変するため、養育者だけで対応することが困難になっている。子育てへの不安や要求は「多様なニーズ」「サービス需要」を生み出す。つまり不安を商品化すれば、サービス商品は飛ぶように売れる。親同士の助け合いや、親が主体的に子育てを工夫してしまえば商売にならない。「子育ての外注化」「子どもの商品化」への依存は、子育てをお金に依存する構造を作る。それが、「お金がなければ子育てできない」「所得のありようが子育ての質を左右する」につながっていく(p114-116)

 

「子どもにとって最善」を目指す職場では、子の後ろにある家庭への働きかけが欠かせない。保育園は、子と親にとって大切な社会の窓口。信頼関係が崩れて登園しなくなれば、その子の命さえも守ることができない。(p66)

手厚い保育所時代はやり過ごせるかもしれない。しかしこの子たちは、わが子の支度もできない、生活力もついていない親たちと、一生、親子でい続けなければならない。そう考えた時にケアだけでは足りない、「生きる力」「生活力」を他の子どもたちよりも少し早くつける手伝いをしたいと思うようになった。(p68)

大変な事情を抱えた家族が入所できると、この社会資源につながってほんとうによかったと心から思う。おなかいっぱい温かい給食を食べ、あそびと生活が保障され、自分が大切にされる心の寄り添いを安心して受け、子どもたちは豊かに発達していく。

「自分の気持ちを分かったくれた」「助けてと言ったらなんとかなった」経験をおみやげ袋にたくさんつめて小学校へ送り出したい。辛くなった時、おみやげ袋のあったかい経験で心を包んで、前を向くたくましさにつなげてほしいと願わずにはいられない。(p70)